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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「すこしも早く石見守さまのお手へ、お渡ししなければ役目がすみません。宿直の方をお呼びするには、どこから声をかけたものでございましょうか」

と小姓の星川余一はまた膝を立てて、あたりを見まわすようすであったが、そんなものを呼ばれては大へん、これから夜明けまでのあいだに、彼女がなそうとする計画はやぶれてしまう。

といって、ここへ止めおいてもこまるし、どうしたものか、と咲耶子がふと考えまどっていると、――キイッ、キイッ、キイ、と、また三太郎猿が勾欄の上をいったりきたりしながら、異常なあわてかたをしてさけびだした。

「あ、あれッ……」

三太郎のヘンな啼きごえに余一も咲耶子も、その時はじめて、夜気のふかい館のあなた、外郭のあたりにあたって、しずかな変化が起っているのに気がついた。

それはちょうど、館の北側につづく馬廻り役の長屋の近くである。そこに建っている屋根の高い馬糧小屋から蒸れたせいろうのように白いけむりがスーとめぐっている。

はて、おかしい?

不審な目をみはると、余一はたちまち、

「な、なんだろう! あれは?」

お使者の格式をわすれて、お小姓とんぼマルだしの、子供らしい口ぶりになっていた。