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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

諜者が、いきなり、奇声をあげて長安の肩へとびついた。

折もおりなので、石見守――。

はッ……と胆を冷やして曲者の手をつかみ、まえへもんどり打たせて投げつけようとすると、伊東十兵衛もスワとはねあがって、つかみ取った槍の穂に風をすわせ、石見守が投げつけたら、そこを立たせずに一突きと足をひらいた。が、曲者は、長安の肩をはなれない。

鈎のような手の爪で、しっかり襟もとへつかまっているので、十兵衛は槍をつきだしようがなく、あッと見ると、長安自身も、つかんだ曲者の手の毛むくじゃらにあきれかえる。

「あぶないッ、突くな」

「なんのこと――三太郎猿でございましたか」

「人をおどろかすやつじゃ、放せ、いたずら者め」

「や、殿。三太郎の襟首に、なにやら書状が」

「なに、手紙が」

「は、りっぱな打紐のお状筥で」

「だれが猿めにこんなものを結いつけたのか? やア、こりゃいよいよもって不審千万、浜松城お使番常用の筥、しかも紅房の掛紐であるところを見ると、ご主君家康さまのお直書でなければならぬが」

「とにかく、ご開封を」

「ウム、猿めを抱いてこい」

乱入者のそうどうの方も気にかかるが、これまた意外な天くだりの状筥、とにかく一見しようと、長安はあたふたと居間へはいり、灯をかき立ててなかをひらく。