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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

愛の旅人

一

うるわしい明け方の雲が、東を染めてきた。

秋霜の下りた山国のあさは、都の冬よりはまだ寒い。白い息が人の鼻さきに凍りそうだ。

「お早う」

地蔵行者の菊村宮内は、お長屋の釣瓶井戸で、足軽たちと一しょに口をそそいでいた。

「ゆうべは、まことにひどいそうどうでございましたな、さだめしみなさんもおつかれでございましょう」

足軽たちに話しかけても、だれもウンとも返辞をするものがなかった。かれらの眼色はまだ夜の明けぬまえの異常な緊張をもちつづけているらしい。

顔をしかめて向こう脛の傷をあらっている者や、水をくんでゆく者や、たわしで洗い物をする者などで、井戸ばたがこみ合っている。

宮内は早々そこをはなれて、

「なにしろ、大事にならなくってしあわせだった」

お長屋の屋根むこうに、まだ黄色く立ちのぼっている馬糧小屋の余煙をながめて、ひとりごとをつぶやいた。

「あッ、神主さん――。竹生島の神主さん」

とつぜん、かれの足を止めた者がある。

だれかと思って横をみると、ご殿の修築に使用する大石のたくさんつんである間に、元気のない蛾次郎の顔がチラと見えた。

「おや、おまえは?」