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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「定めしゆうべはびっくりなすったであろう」

と話しかける。

「おどろきました。火事と思うと、すぐにあの乱入者の剣の音でな。しかし、かくべつなこともなかったようで、まずお館にとっては、大難が小難でなによりともうすものです」

「どうして、意外な被害なので」

「ほウ」

「いま、役人がしさいを書きあげているが、味方の斬りすてられた者二十四、五名、手負いは五十名をくだるまいとのことでござった。その上、ご老職伊東十兵衛どのが、源氏閣の上から袈裟斬りになって真下へ落ち、鉱山目付の伊部熊蔵どのも悶絶していたようなありさま、けれどもこれは命に別条なく助かりましたが」

「ほウ、そんなに? してここの主、大久保長安どののお身にはなにごともなくすみましたかな」

「いちじは曲者に追われて、あやういところであったそうだが、ご寝所から壁返しのかくれ間へひそんで、やっとのがれたという話、その間に運よく夜が明けましたゆえ、曲者たちは濠をこえて、いずこともなく逃げうせたそうで」

「で、相手方の死骸は?」

「それがふしぎ、なかには手負いや死んだ者もあったろうに、逃げるときにもち去ったか、一つもさきの死骸がのこってない」