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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

クロとともにかげを見えなくしたところからさっすれば、竹童の鷲乗りをうつしまねて、空へと、舞って逃げたよりほかに考えようがないが、あの絵に見まほしき振袖すがたで、そんなあぶないはなれわざが、果たして首尾よくいったろうか。

いや、心配はあるまい。

かの女も裾野の女性である。山大名の娘である。竹童のすること、蛾次郎でさえやること、余一すら乗りこなしてきた鷲――なんで乗れないことがあるものか。

そうあれば。

とにかく咲耶子の身には、ふたたび、うばわれた自由と希望がかえっているわけ。

カアーン……カアーン……カアーン

きょうも甲府の町にのどかな鉦の音。

菊村宮内はおなじ日に、卜斎と別れを告げ、花や供物にかざられた笈摺と、かがやく秋の陽を背にして、きのうのごとく、地蔵菩薩の愛の旅にたっていった。

二

翌日は駒飼から笹子峠を越える。

甲府を一とおり遍歴した宮内は、これから道を東にとって、武蔵の国へはいるつもり。

これから武蔵へかかる山境は、姥子、鳴滝、大菩薩、小仏、御岳、四顧、山また山を見るばかりの道である。すきな子供のむれに取りまかれることがいたってまれだ。