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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

といった。

「おう、さようで」

と、福島市松も加藤孫一も、みな主君の指さすところへ目をやった。

見ると、なるほど、戦場のようにこんざつしている桜門の方角から、ひとりの武将がふたりの従者をつれ、作事奉行筒井伊賀守の家臣の案内にしたがって、こっちへ向かってくるすがたが小さく見える。

「いかにも見えまするなあ」

と孫一がいうと、片桐市正が、

「お上はお目がよくておいで遊ばす」

と賞めあげた。

秀吉は、そうさ! といわないばかりに胸をそらして、

「おろかなこと、この秀吉の目には、日本のはてまで見えておる」

笑いながら見得を切った。

二

かりに本丸をかためている作事門の柵ぎわへ、その使者と筒井の家臣とがきた。

「お開けください」

「だれだ!」

番士は具足、真槍、鉄砲、すこしも戦時とかわらない。

もっとも、作事奉行も棟梁も工匠目付も、四方にかけあるいている使番もすべて上は鎧装陣羽織、下は小具足、ことに人夫を使っているものなどは抜刀をさげて指揮しているありさま。

(怠けるものは斬る)

これが築城場の宣言だ。

したがってここの空気は、賤ヶ岳、柳ヶ瀬の合戦の緊張ぶりとすこしもかわっていないのである。