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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「上杉家諸士溜場」

「北条家休息小屋」

「徳川家家臣寄合場」

などとその小屋にはいちいち木札がうってあって、各所ものものしいありさま、すでに明日とせまってきた大講会広前の試合のしたくやなにかに活気だっていたが、いま、天下大半のあるじ、豊臣家にはなんのしたくもなく、見物にまじってぶらりとやってきた三名は、さしずめ、そこらの樹のしたに蓙でもしいて一晩明かすよりほかにしかたがない。

三

麓のすこし手まえにある御岳の宿の町中も、あしたから三日にわたる山上の盛観をみようとする諸国近郷の人々が、おびただしく入りこんできていて、どこの旅籠も人であふれ、民家の軒に戸板をだして、そこに野宿をする覚悟のものが幾組となく見うけられた。

カアーン、カアーン

鉦をたたきながら、そこを通る地蔵行者があった。

足でもいためているのか、笈を背負っているその地蔵行者は右の足でびっこをひいていた。

すこし歩いては休み、すこしあるいては休みして、

カアーン、カアーン……と行乞の鉦をあわれげにたたく。

「まだおからだがお痛うございますか」

こういって、いたいたしげに行者の足をみたのは、道づれになっている女の巡礼――坂東三十三ヵ所の札を背なかにかけた女房である。