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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と、お時は手のうちの玉をとられたように、あッけにとられて失望したが、その目のまえに、すぐと、また同じような少年がひとり、月ノ宮の境内から勢いよくかけだしてきて、

「――蛾次だ!」

と、石の狛犬のそばに立って、背のびをしながら、逃げたもののうしろ姿を見おくっているようす。

すがたも似ている、年かっこうもたいして違うまい、ただ蛾次郎よりは少し背がひくく眼ざしや口もとに凜としたところがある。

それもお時にははじめてみる少年――かの鞍馬の竹童だった。

だが、子をたずね迷うお時の目には、ものかげからジイッと飽かずに見ていると、ああ煩悩は実にもふしぎ、この少年こそ、あるいは自分の子ではないか、あのお諏訪さまの灸のあとが背なかにあるのではあるまいかと、迷えばまようほど思われてくるのであった。

兵法大講会

一

勢いよく、月ノ宮の境内からかけだしてきた竹童は、自分と入れかわりに、そこをすッ飛ぶように逃げだしていったうしろ姿へ、

「やッ、あいつめ!」

石の狛犬に手をかけて伸びあがりながら――。

「蛾次だ、蛾次公だ」

と、棗のような目をクルッとさせて、いつまでもそこに見おくっていた。