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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
――まあまあ、そう気が短こうては、自身のからだをやつれさすばかり、それでは永い年月に、わが子をさがそうという巡礼の旅がつづきません。ただひたすら、めぐりあう日は神仏のお胸にまかせて、坂東三十三ヵ所のみ霊に祈りをおかけなさい。……わたしも幸い、地蔵愛の遍歴者、およばぬながらも同行になって、ともどもさがして進ぜましょうから」
と、宮内はお時をなぐさめた。
そしてふたりは、月ノ宮の御籠堂に笈をおろしたが、古莚につめたい夢のむすばれぬまま、啼くこおろぎとともに夜もすがら詠歌をささげて、秋の長夜を明かしていた。
三
塩市と馬市と盆の草市が一しょくたにやってきたように、夜になると、御岳ふもとの宿は提灯の鈴なり、なにがなにやら、くろい人の雑沓とまッ赤な灯であった。
諸国諸道からここに雲集した人々は、あすの日を待ちかまえて、空を気にしたり、足ごしらえの用意をしたり、またはその日の予想や往年の思い出ばなしなどで、どこの宿屋もすしづめのさわぎ。
「よウ、京都の葵祭にも人出はあるが、この甲斐の山奥へ、こんなに人間が集まってくるたあ豪勢なもンだなあ……」
と、その町なかの一軒の旗亭の二階で、窓から首をだして、のんきに下をながめている男が感心していた。