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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「あの者は、源氏閣の上より逃亡して、その後ゆくえ知れずになっていた咲耶子という不敵な女、ことに、浜松城に差し立てることになっている罪人じゃ。わたさぬとあれば、徳川家の武威のほどを示しても申しうけるがどうじゃ!」
いうことばの終るのを待たず、
「血まような、石見守ッ」と、一火は激越に、
「汝、総奉行という重き役目にありながら、じしんから大講会のやくそくを破ってもよいものか。――この御岳三日のあいだは、兵を動かすなかれ、血を流すなかれ、仇国との兵火もやめよという掟の下に行われることは、ここにあつまる天下の武門、百姓町人もあまねく知るところ。――それを、弓矢にかけてもと申したいまの一言、それは正気か! おどかしか! 見ごと取れるものなら武力をもって取ってみろ」
これは理のとうぜん。
石見守長安は、ハッと醒めたような顔色になった。そして自分の過言に気がついたらしく、
「いや鐘巻先生」
と、急にたいどをかえて、
「不肖、奉行の身をもって、混乱のなかとはいえ、過激に似たことばを発したのは、重々なあやまり、どうかお気持をとりなおしていただきたい」
「そう尋常に仰せあるなら、なにも、このほうとて、威猛高になる理由はない」