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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、侍はらいらくに笑って、ひとり酌ぎ、ひとり飲んで、しきりと愉快がっている。
冷水をたたえた手桶に小柄杓、それに、汗どめの白布をそえてはこんできた若い武士がある。一同にその使用をすすめたのち、
「拙者は大坂城に質としておる真田源次郎という若輩者、どうかお見知りおきを」
と、ていねいに名のった。
「や、では秀吉公の」
と忍剣や龍太郎は、はじめて、五三の桐の紋どころに思いあわせて、
「真田源次郎どのとおおせあると、上田の城主真田昌幸どののご一子、秀吉公の手もとで養われているとうわさにききましたが、その源次郎どのでござるか」
「お恥かしゅうぞんじます」
と、源次郎はあくまでけんそんであった。
「やあ、さてはやはりそうであったか。これはお見それいたしました。わたしこそは、なにをかくしましょう、故勝頼公のわすれがたみ、武田伊那丸君の付人、恵林寺の禅僧加賀見忍剣ともうしますもの」
「じぶんは、おなじく伊那丸さまの微臣、木隠龍太郎という者」
「拙者は、山県蔦之助です」
礼にたいしては礼をもって酬う。
巽小文治や鞍馬の竹童も、そのことばについてじゅんじゅんに姓名を明かしていくと、最初に、幕のかげから手招きした可児才蔵もそれへきて話しかけ、酒をのんでいた侍も、井上大九郎と名のりあった。