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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

てまッすぐに走っている。

「やッ?」

とたんに、射手の山県蔦之助は、弦をはなした右手をそのまま、サッと顔色をかえてしまった。

耳を聾せんばかりのどよめきが、土用波のように見物人をもみあげた。なにかののしるような声、嘲笑するようなわめき、それらが嵐のごとく、かれをとりまいた心地がした。

「遠矢一本試合、徳川家加賀爪伝内どのが的をとったり!」

と、鐘巻一火は検証の床几からさけんだ。

意外。

蔦之助は敗れたらしい。

今為朝の矢はどうしたか? あのたしかな代々木流の矢がどうして狂ったのであろうか。

二

鐘巻一火の叫んだのは、けっして不公平でもうそでもなかった。加賀爪伝内の切ってはなった黒鷹の石打羽の矢は、まさしく、白鳥の峰の大鳥居の額ぶちに刺さっているのに、それにひきかえて蔦之助の射た妻羽白の矢は弓勢が弱かったため、谷間の気流をうけてそれたのか、あるいは弦切れの微妙な指さきに、なにかのおちどがあったのだろうか、とにかく、白鳥の峰へとどかぬうち、霧のごとく影を消して、どこへ落ちたかそれていったか、肉眼では見えなくなった。

お小姓とんぼ組をはじめ、徳川方の者とそれに心をあわす溜り場では、わッといちじに凱歌をあげた。