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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

瓶はくだけ、秋草はとんだ。

みじんになった陶物の破片を越えて、どッ、泉をきったような清水があふれだしたことはむろんだが、猫もでなければ呂宋兵衛の正物もあらわれなかった。

水に足をひたされて、ハッとわれにかえれば、これは野陣の人々の飲料水である。反間の敵に毒を混じられないようにわざと、花壺に見せかけておいた生命の水にちがいない。

「逃がした……」

なにか、忍剣のあたまは、そのとき、霧がかかっているような心地だった。そして、ぼうぜんとしていると、張りまわした幕に、ソヨソヨと小波のような微風がうごいて、その幕のかげあたりを、聞きなれない南蛮歌の調子で、口笛をふいて通ってゆくものがある。

「あッ」

銀の鞭の音がする。

そして、

「あははははははは……」

まぎれもない、怪人和田呂宋兵衛の人をバカにしたような笑いごえだ。

神馬草薙と早足の男

一

あざ笑う声はする。

銀の鞭が幕のうしろを歩いている。

だが、霧のようなじゃまな幕、それにさえぎられて、けんとうもつかねば、すがたも見えない。

忍剣は地だんだを踏んで、幕の波をさぐりかけた。しかし、瓶の水が表のほうへいっさんに流れだしていったため、それにおどろいた徳川家の諸士や、溜り場のむしろを水びたしにされて跳びあがった、れいの菊池半助、鼻かけ卜斎、泣き虫の蛾次郎、そのほかお小姓とんぼ