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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「婆さん、痛いかい?」

のぞきこんだのは燕作である。

蚕婆は、腰をさすって、

「ウーム、痛い」

と、顔をしかめた。

「いまに楽にしてやるよ、おめえだけさきに浜松へ帰るんだ。ご城下にかえれば、湯もある医者もある、なにもそんなに心配することはねえ」

ところへ、ばたばたと足音がしてくる。

葵紋の幕をあげて、あわただしくかけこんできたのは、菊池半助であった。

右のこわきに、咲耶子のからだを引っかかえていた。不意に、当身をうけたのであろう、彼女は力のない四肢をグッタリとのばしていた。

「呂宋兵衛、呂宋兵衛」

「お」

もう一挺の駕籠のなかに、和田呂宋兵衛がかくれていた。ひらりと飛びだして――。

「半助さま、ごくろうでしたな」

「む。いい首尾だったので、なんの苦もなくさらってきた」

「お早いのには、呂宋兵衛も舌を巻きましたよ。さすがは、伊賀者頭でお扶持をもらっているだけのお値打ちはある」

「おだてるな。して、支度は」

「このとおり。なん時でも」

「では、一刻もはやいがいいぞ。おい燕作、ちょっと手をかせ」

呂宋兵衛が身をぬいた空駕籠のなかへ、咲耶子のからだを押しこんで、その、人目につく身なりの上へ、蚕婆と同じくろい服をふわりとかぶせた。