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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「忍剣がッ。忍剣があばれこんできたッ」

血に染まった武士たちが、なだれを打ってころげこんできたので、そばにいた四、五人の家臣と一しょに、

「さては」

と、にわかに度をうしなってしまった。

だが、かれとしては、張らざるを得ない虚勢をはって、

「ええ、多寡の知れた乞食坊主のひとりぐらいに、この狼狽はなにごとだ、取りかこんで、からめ捕ってしまえッ」

と、叱咤した。

しかし――そのことばと一しょに、目のまえの炉のなかへ、ひとりの試合役人が逆とんぼを打って灰神楽をあげたのを見ると、かれはけつまずきそうになって、狩屋建の小屋の裏へ逃げだしていた。

「待てッ、長安」

放たれた豹のごとく、その姿を目がけて、忍剣の跳躯がパッとうしろを追う。

「あッ」

と、かれがひきょうな声をうわずらしたせつな、狩屋建の板戸や廂が木ッぱになって、メキメキと飛びちった。

「ウーム、徳川家の衆、浜松の衆、出合えッ、出合えッ、狼藉者だ、狼藉だ」

見栄もなく、むちゅうでさけびながら、幕のすそをくぐッて浜松城の剣士たちがいる溜り場へ四つンばいに逃げこんだ。

朱槍、黒槍、樫みがきの槍、とたんに、幕をはらって忍剣をつつんだ。