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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

その縄を右手につかんで、

「忍剣」

としずかに呼びかけた。

五

忍剣は、ハッとしたようすで、

「おう、民部どのか」

と、炎のような息をついた。

「伊那丸君のおいいつけを受けて、若君の代りとしてまいった小幡民部だ。神の掟をやぶった科者、すみやかにご神縛につけいッ」

言下に、ガランと地を掘って、かれの足もとへ血みどろの鉄杖が投げだされた。

そして忍剣は、すなおに、うしろへ手をまわして、

「民部どの、ご心配をかけました。いざ……」

と、大地へ坐りこんだ。

注連のついた荒縄がギリギリとかれの腕へまわされた。民部はこのあいだに、なにか、いってやりたかったけれど、胸がいっぱいで、かれにあたえることばを知らなかった。

忍剣のからだは縄つきのまま、民部の手から、御岳の神官にわたされた。

それを見ると、逃げまわっていた徳川家の者たちが、また蠅のように集まって神官を取りまき、忍剣をわたせ、殺傷の罪人を徳川へわたせと喧騒した。

神官は、だんじて、それをこばんで、

「科人はご神刑にかけます。ご領地のできごとなら知らぬこと、ご神縛の科人は当山のならいによって罰します」

そして、一同に退去を命じた。