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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いつか、月ノ宮の鳥居の下で見たこともあるが、蛾次郎は、ただの物貰いとしか思わないので、いまの餅屋のおつりのうちから鐚銭を一枚なげて、
「ほれ、やるよ」
と、あとも見ずに、あなたの小道へ、すたこらとかけだしてしまった。
七
いつのまにか、竹童のすがたが見えなくなった。
伊那丸以下のひとびとは、あのそうどうのあった晩から、御岳の一舎に謹慎して、神前をけがした罪を謝すために、かわるがわる垢離堂の前で水垢離をとった。
それまでのあいだに、竹童の姿が洩れている。
「どこへいったろう? もしや、徳川家の者に、捕らわれていったのではないか」
一同が、ひそかに心配していると、翌朝のこと、垢離堂の石井戸のそばに、竹にはさんだ紙片が立っていた。
マタ鷲ヲサガシニマイリマス。クロハワタシヲコイシガッテイマス。ワタシモクロガコイシクテナリマセン。
民部サマカラ若君ヘ申シアゲテクダサイマシ。ワガママナコトデス。
置手紙には、竹童の文字で、こう書いてあった。
「かれのことだ。それならあんじることはない」
むしろ、一党の人は、それで愁眉をひらいていた。しかし、愁眉のひらかれぬ気がかりは、ご神罰に刑せられている忍剣の身の上――。