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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それをからかいにきた山猿か? 山猿のいたずらか? いやそうでもない、やはり、猿が忍剣にささやくのであった。

「忍剣さま、さだめし、おひもじいことでしょう。早くこようと思いましたが、この山には道がありません。一つの小道には神官の見張小屋が建っています、それでおそくなりました。なにしろ二十一日間、ものを食べないでは夜の寒気や雨の日に耐えきれません。さ、これを食べてください、よくかんでのんでください、あとで水を持ってまいりますから」

忍剣の口へ、ふしぎな味のするものを入れた――木の実でもない、穀物でもない、菓子でもない、餅でもない。

しかし、その味のいいことは、なんともいえないほどだ。忍剣は、まだかつて、こんな味のいいものを食べたことがなかった。

「おまえはだれだ」

「いまにわかります」

「でも」

「不安なものではありませんから」

「いまのはなんだ」

「なんということもありません。この山に生えている、葡萄、苔桃、若老、しゃくなげの芽、それに栗だの柿だの、仙人草の根だの、いろんなものをすこしの焼米と搗き交ぜたのでございます。一日に、これ一つ食べれば、体も、あたたかく、けっして、飢えるようなことはありません」