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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
神木の上に梟けられている忍剣をのぞいては、すべての生物に、天国そのままな秋の朝だ。
ところへ――。
無心な禽獣をおどろかす人間の口笛が、下のほうからきこえてきた。
これも、ほがらかな秋を謳歌する人間か、きいていても筋肉がピクピクしてきそうな口笛だ。健康な両足で、軽快な歩調で、やってくるのがわかるような口笛だ。
「ああ、ずいぶん登らせやがるな。まだかい! ご神刑の山毛欅ッていうのは」
だれもいないと思って、思うさま太ッかい声でひとりごとをいった。――それは、泣き虫の蛾次郎だった。
九
喉がかわいているとみえて、蛾次郎はそこで一息つくと、岩層のあいだから滴々と落ちている清水へ顔をさかさまにして、口をあいた。
「オオ、つめたい!」
袖で口を横にふいて、また数十歩のぼりだした。
すると、かれのまえに、裾野の樹海でも見たこともないような、山毛欅の喬木が天を魔して立っていた。蛾次郎はそう思った。まるでばけものみたいな大きな木だなアと。
「おや?」
見ると、その千年山毛欅の根ッこに、石橋山で頼朝が身をかくしたような洞穴がある。そのまッ暗な洞穴のなかで、なにか、コトリと音がした。