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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「くるかッ」
と、短銃の筒さきを竹童にむけた。
「なにを」
竹童の目にはなにもののおそれもなかった。
蛾次郎はあわてた。かれの狡獪なそら脅しは効果がなかった。火縄はいまの格闘でふみけされてしまったので、筒口をむけてもにわかの役には立たないのである。
で、蛾次郎の立場は悪くなった。
彼はひどくろうばいして、いきなり短銃を相手の顔へ投げつけ、ばらばらと逃げだした。
それを肩のそとにこさして、一躍すると、竹童の手には、優越をしめす般若丸のひらめきが持たれている。
彼は、逃げだした相手をおいかけて、
「ひきょうだぞ。――ひきょうだぞ、蛾次郎」
と、叫んでとぶ。
さんざん逃げまわった蛾次郎は、ついに、とんでもない危地に自分からかけこんでしまった。そこは、嵐弦の滝の崖ッぷちで、あきらかなゆきどまりである。
彼は、目がくらんでしまった。
ただそこに大きな楢の木があって、断崖の空間にのぞんで屈曲していた。バリバリというと蛾次郎は、幹をはってその横枝へうつっていた。
しかし、そこもホッとする安全地帯にはならない。すぐ血眼になった竹童が、おなじ幹をよじのぼって、般若丸の刀で楢の小枝をはらいながら、ジリジリとせまってきた。