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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いや、おんみずからのご不自由よりも、戦乱のちまたに飢えひしがれている民のうえにご宸念を休ませられたことがない。
わしは、朝暮に、御座ちかく奉仕しているので、まのあたりにそのおんなやみをみて、涙のたえぬくらいである。畏れ多いおうわさであるが、御所の御簾はほつれて秋風のふせぎもなく、供御のものにさえことかく事がめずらしくない。
それだになお、君は民草の塗炭にお心さえ休まったことがない。なんと浅ましい戦乱のすがたではないか。
なぜいまの世がこんなに悪いのか。それを、そなたにいうのは孟子に法を説くようなものだが、武家の罪である、群雄割拠して領土と領土のあばきあいの他、なにごとも忘れている兵家の罪でなければならぬ。
秀吉、家康をはじめ、加賀の前田、毛利、伊達、上杉、北条、長曾我部、みなそれぞれ名器の武将であるけれど、かれらはじぶんの功をいそぐ以外に、上も下も、なにものもかえりみているゆとりがない。天下統一の先駆けにあせって、戦って勝つという信条の下には、どんな犠牲も惜しまない。
これでは民草も枯れるわけである。お上のご宸念のたえない道理である。気をわるくするかもしれないが、そなたの祖父信玄ほどの人物も、そのひとりだといわなければならない。