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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そのまに、二、三人の郎党は、小船の板子を四、五枚はずしてきて、武田伊那丸の死の座をもうけた。

「これこれ、せんこくの小娘もことのついでじゃ。そこへならべて、民蔵の腕だめしにさせい。旅の一興に見物いたすもよかろうではないか」

宮の根もとにくくりつけられていた咲耶子は、罪人のように追ったてられて、板子のならべてあるとなりへすえられた。彼女は、もうすっかり覚悟を決めてしまったか、ほつれ髪もおののかせず、白百合の花そのままな顔をしずかにうつむけている。

いっぽうでは、鎧の音をさせて、ずかずかと迫っていった四天王の面々が、例の鎖駕籠のまわりへ集まり、乗物の上からかぶせてある鉄の網をザラザラとはずしはじめた。

長い道中のあいだ日のめを見ることなく、乗物のうちにゆられてきた伊那丸は、いよいよ運命の最後を宣告され、悪魔の断刀をうけねばならぬこととなった。四天王の天野刑部は、ガチャリ、ガチャリと荒々しく錠の音をさせて、駕籠の引き手をグイとおし開け、

「伊那丸、これへでませいッ」と、涙もなく、ただの罪人でも呼びだすようにどなった。

が――駕籠のなかは、ひっそりとして音もない。