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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おお伊那丸さま、わたくしはここでござります」

近よってきた白鹿毛の上には、かいがいしい装束をした彼女のすがたが、細身の薙刀を小脇に持って、にっことしていた。

「咲耶子、呂宋兵衛めは、いずれへ姿をかくしたのであろう。忍剣も龍太郎も、いまだに討ったと声をあげぬが」

「わたくしも、余の者には目もくれず、八ぽうさがしてまわりましたが、影も形も見あたりませぬ。ざんねんながら、どうやら取り逃がしたらしゅうござります」

「いや、民部がしいた八門の陣、その逃げ口には、伏兵がふせてあるゆえ、かならず討ちもらす気づかいはない」

とふたりが、馬上で語り合っているすぐうしろで、ふいに、悪魔の嘲笑が高くした。

「わ、はッはわはッは……このバカもの!」

「や!」

ふりかえってみると、人影はなく、星の空にそびえている一基の十字架。

「いまの声は、たしかに呂宋兵衛」

「奇ッ怪な笑い声、咲耶子、心をゆるすまいぞ」

きッと、十字架をにらんで、ふたりが息を殺したせつなである、一陣の怪風! とたんに、星祭の壇に燃えのこっていた赤蝋が、メラメラと青い焔に音をさせてあたりを照らした。

明滅の一瞬、十字架のうしろにかくれていたおぼろげなかげは、たしかに怪人、和田呂宋兵衛。