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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

悪いことはすすめぬから、いまのうちに柴田家の旗下について、後詰の援兵をあおぐが、よいしあんと申すものじゃ」

「だまれ。よしや伊那丸ひとりになっても、なんで、柴田ずれの下風につこうや、とくかえれ、八風斎!」

「ではどうあっても、柴田家にはつかぬと申しはるか、あわれや、信玄の孫どのも、いまに、裾野に屍をさらすであろうわ、笑止笑止」

毒口たたいて、秘図をふところにしまいかえした八風斎、やおら、伊那丸のまえをさがろうとすると、面目なげにうつむいていた忍剣と小文治が、左右から立って、

「若君にむかってふらちな悪口、よくもわれわれ両人をだましおったな!」

と、猿臂をのばして、八風斎のえりがみをつかもうとしたとき、

「方々! 方々! 敵の大軍が見えましたぞッ」

にわかに起ったさけび声、陣のあなたこなたにただならぬどよみ声、伊那丸も咲耶子も、民部も蔦之助も、思わずきッと突っ立った。

「それ見たことか、はやくも地獄の迎えがきたわッ!」

さわぎのすきに、すてぜりふの嘲笑をなげながら、疾風のように逃げだした上部八風斎。

忍剣と小文治が、なおも追わんとするのを伊那丸はかたく止めて、かれのすがたを見送りもせず、