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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そのかわり、おめえが勝てば、六枚になるじゃねえか、六枚はって、また勝てば十二枚、その十二枚をまたはれば、二十四枚、二十四枚は二十四両、どうでえ、それだけの金をふところに入れて、甲府へいってみろ、買えねえ物は、ありゃしねえぞ」

「よし! はった」

「えらい、さすがは男だ、よしかね、勝負をするぜ」

「ウム、燕作さん、ごまかしちゃいけねえよ」

「ばかをいやがれ、いいかい、ほれ……」

と、燕作が壺へ手をかける、蛾次郎は目をとぎすます――と、その時だ……

ドドーンと、裏山の上で、不意にとどろいた一発の狼煙。

燕作は見張り番の性根を呼びさまして、「あッ!」とばかりはねかえり、窓の戸をガラッとあけて空をみると、いましも、打ちあげられた狼煙のうすけむり、水に一滴の墨汁をたらしたように、ボーッと碧空ににじんで合図をしている。

「やッ、なにか伊那丸の陣のほうへ、合図をしやがったやつがあるな。ウム、もうこうしちゃいられねえ」

あわただしく取ってかえすや否、賭けてあった小判をのこらずかきあつめて、ザラザラとふところにねじ込む。

蛾次郎はぎょうてんして、その袂にしがみついた。

「ずるいやずるいや、燕作さん、おれの金まで持っていっちゃいけないよ、かえしてくれ、かえしてくれ」