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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

これはかつて、人穴城で竹童と初対面のときに、問答ちゅうにかれがやってみせたことのある、呂宋兵衛得意の口術、いま、吐いて糸をわたらせた金蜘蛛は、壁にはりついている大蝙蝠のそばへはいよったが、それを見ると蝙蝠は、バサリと一すべりして、いきなり蜘蛛を食いにかかった。

と、蜘蛛はつーッ、と二尺ばかり糸をもどってとまる。蝙蝠はまたソロリと寄って餌をうかがう――その機微なころあいをはかって、呂宋兵衛はスッと、吸う息とともに、蜘蛛を口のなかに引きいれてしまうと、蝙蝠は餌を追ってパッとかれの顔へぶつかってきた。

「えいッ!」

とたんに、かれの五体からおそろしい気合いが発した。そして、忽然と床に鳴った鎖の上へ、大蝙蝠のくろい妖影が、クルクルと舞いおちた。

二

「やッ」

愕然と、多宝塔の下で立ちすくんだのは、寝ずの番の加賀見忍剣。

左に鉄杖をつき、右手を眉にあてて、暁闇の空をじッとみつめていたが、やがて、

「おお! 山県、巽!」

と同僚の名を呼びたてた。

「なんじゃ」

「異変かッ」

バラバラと、すぐそこへ飛んできた小文治と蔦之助、――忍剣は、

「しッ」

と手でせいして、

「愚僧の気のせいかも知れぬが、あの塔の三重目にあたる欄干に、何者か立っておらぬだろうか」