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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

すると、ウーム……とうめきだしたかすかな人声。海賊たちにつれこまれた旅人らしい、ムクムクと身をおこして、人のけはいにおびえている。

「おい、おい」呂宋兵衛は、鉄格子からのぞきこんで、

「もしやおまえは、富士の裾野にいた蚕婆ではないか」

「えッ!」

と、びっくりしたが、しばられているので、そばへは寄ってこられぬらしい。

「わ、わたしを知っているのは、いったい、だ、だれだい……」

「人穴の呂宋兵衛よ」

「ひえッ、呂宋兵衛さま? ああありがたい、助かった。海賊の龍巻がこないうち、はやくここからだしてやっておくんなさい」

「どうしておまえはまた、こんなところへつれこまれたのだ」

「どうしてだって、このくろうをするのも、みんなおまえさんに味方をしたためじゃないか。人穴城から法師野へ逃げて、落ちつくまもなく、伊那丸の夜討ちにあい、やッと北陸道まで逃げのびたと思うと、こんどは海賊につかまってこのありさまさ」

「やッぱり、おれの想像があたっていた」

「くやしいから龍巻の目の玉へ、針を一本吹いてやったら、いまになぶり殺しにしてやるからおぼえていろと、おそろしい血相で、二階へかけあがっていったが……」