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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

力なくこういうと、神官の菊村宮内は、天狗の爪からすべりおちるように、よろよろと島のなかへすがたをかくしてしまった。

島にはつつじ、山吹、連翹、糸桜、春の万花がらんまんと咲いて、一面なる矮生植物と落葉松のあいだを色どっている。宮内のすがたは、その美わしい自然に目もくれないで、しおしおと細道をたどっていった。

かれの直垂の袖をかすめて、まッ黄色な金糸雀がツウ――と飛んだ。

と、その向こうには、神さびた弁天堂の建物が見えた。なお、あたりには、宇賀の御社、観音堂、多聞堂、月天堂などの屋根が樹の葉のなかに浮いている。

「宮内さま、もうお午でございます」

社の内から走りだしてきた巫女の少女が、かれの姿をみるとこう告げた。だが、宮内はゆううつな顔をうつむけたまま、

「う、お午か。やめよう、今日はなんだか食べたくない」

とかぶりをふった。ちいさい巫女はそれを追って、

「ですけれど、あの、可愛御堂のなかにいるお方へは、いつものように、お粥を作っておけとおっしゃったので、もうできておりますが」

「お、忘れていた。じぶんの心がみだされたので、ツイそのことを忘れていた。さだめしお腹がすいていよう」