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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

生あたらしいその高札の片面に、なにか墨色もまざまざと書いてあったが、その文字のうちに、ふと、武田と読めた一行があったので、竹童はハッと胸をさわがしたが、

「あ、もし」

と、呼びとめておいて、つとめて冷静をよそおいながら、

「浜松のご城下へゆくには、これをまっすぐにゆけばいいんですか……」

と道にまよっているふりをして、そのあいだに、足軽が肩にかけている高札の文字を読もうとしたが、意地わるく、文字面の裏を向けていて、よく読むことができなかった。

「うむ、ご城下へは一本道だが、まだだいぶ道のりがあるぜ」

「じゃ、日が暮れてしまいましょうね」

「いそいでゆきねえ。ぶっそうだから」

曠野にさまよう子供と見て、その足軽は、さきへ青竹をつんでいった車やつれの人数からひとりおくれて、こまごまと、十字路の方角や里数をおしえてくれている。

「どうもありがとうございました」

竹童はその道しるべより、肩にかついでいる高札のことを、なんとかして聞きほじりたいがと苦慮したが、いきなりたずねだすのもさきの疑いを買うであろうと、わざと空とぼけて、

「それでよく道はわかりました。ですけれど、おじさん、この広い原ッぱは、いったいなんという所なんでしょうね」