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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

なかにも、小幡民部はその急報をうけるとともに、

「ううむ……」

と、深くうめいたまま、しばらく、いうべき言葉もなかったくらい。

山曲輪の一廓、評定場の扉はかたくとざされた。

ひそやかに、そこへ集まった人々は、むろん、帷幕の者ばかりで、民部を中心に、山県蔦之助、巽小文治。そして、竹童はそのまえに疲れたからだをすえ、咲耶子はうちしおれて、紫蘭のかおる黒髪を、あかい獣蝋の灯のそばにうつむけていた。

「竹童」

やがて、民部はおもおもしい顔をあげて、

「そちがさぐってきた、若君のご異変、また都田川の刑場でおこなわれる時日、かならずまちがいのないことであろうな」

「たしかに、そういないこととぞんじます。その刑場をつくる足軽のはなしや、またお小姓のいったこともみなピッタリと、合っております」

「すると、今宵もやがて夜明けに近いから、のこる日は明日だけじゃ……」

さすが、甲州流の軍学家、智謀のたけた民部といえども、この急迫な処置には、ほとんど困惑したらしく、憂悶の色がそのおもてを暗くしている。

「若君のご運命がそうなっては、もう、われわれもこの砦をまもる意義がない」

巽小文治は、悲痛なこえでいった。