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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「この石摺りの軸はどうしてそちが手に入れた」

「ああ、それは石摺りと申しますか。じつはわたしにもよく読めませず、へんなものだと思いましたが、このあいだ、村へまよってまいりました妙な老人が、宿をかりた礼にといって、自分でかけてまいりましたので、そのままほッておいたのでござります」

「忍剣、龍太郎。これを見い!」

と伊那丸はさらに床の間にちかづいて指さした。それまでは他の者も、なにか、得体の知れない、ただ岩の肌へ墨をつけてそれを転写した碑文かなにかと思っていた。が、そういわれてよく見ると、まっ黒な黒と白い筋のあいだに二行の文字が刷りだされてある。

「あッ!」龍太郎はぎょッとした。忍剣もふしぎにたえない面持であった。

父子の邂逅はむなしく

小太郎山の砦はあやうし

いつか、京都の舟岡山、雷神の滝の岩頭に、果心居士が彫りのこしていった二行の予言!

それが岩のしわ目と文字の痕をほの白く、そッくりそのまま、石摺りに写ってここにあるのではないか。

勝頼と伊那丸のことを、未然に暗示した一行の文字はいま思えばあたっていた。戦慄すべきもう一行の予言! 小太郎山の砦があやういとはどういうわけか? それは伊那丸にも民部にも、どうしてもわからなかった。