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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

――すると、その灯は消えて、つぎにはやや青味をもった灯が、ななめに、雨のような筋を三たびかいた。

つづいて――青赤二点の灯が、たがいちがいに手ばやく闇に文字をえがくがごとくうごいたが、それは軍学に心あるものでも、めったに意味を解くものは少ない、勘助流火合図の信号にそういない。

「……や、いまから夜明けの間に……オオ、四十八人が……」

闇にかく灯の暗号を、咲耶子は熱心な目で読んでいたが、とつぜん、風にでも消されたように、青い灯、赤い灯、ふたつとも、いちじにパッと消えてしまった。

と――同時に、彼女の耳ちかく、一陣の強風が虚空から横なぐりに巻いてくるのを感じた。そして、躑躅ヶ崎の建ちならぶ殿楼長屋のいらかの波へ、バラバラバラバラまッくろな落葉のかげが雹のように降ってくる!

彼女は知らなかった。

自分が最前、濠のあなたへ、忍びやかに吹いていた笛の音が空をゆるく、妙に流れているあいだ、酔えるように、しずかにこの源氏閣の上を舞っていた怪鳥のことを。

「あッ――」と、はじめて知る。

颯然と目のまえへ降りてきたのは、大鷲のクロである。

黒いちぎれ雲のように、彼女のまえをかすめて奥庭へ降りたかと思うと――地にはとまらないで、また、舞いあがってきた。