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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「それならここにいそうなものだが」

「ふしぎだなあ」

「奥の部屋には」

「つぎの間はない!」

「ではどこかに隠れ場所でも? ……」

早口に、こんな言葉をかわしながら、室内の物をとりのけて、しきりとだれかをさがしているようす。

むろんそれは、手組の筏にのって濠をこえ、館のそうどうに乗じて、ここへ潜入してきた、木隠龍太郎と巽小文治のふたりである。

「おのれッ」

と、そこに思わぬ敵を見かけた伊部熊蔵は、いきなり小文治のうしろ姿を目がけて、思慮なき刃を飛ばしていった。

「うむッ」

といってその胸もとへ、石火にのびてきた朱柄の槍の石突きは、かれの大刀が相手の身にふれぬうちに、かれの肋骨の下を見舞った。

「ざんねんだが、咲耶子のすがたが見当らなければぜひもない。このうえは、どうせのついでに、大久保長安の寝所を見つけて、きゃつの首を土産に引きあげよう」

欄のまわりに影ばかり見せて、ただワアワアとさわいでいる若侍たちを睥睨しながら、源氏閣から桜雲台の本殿へもどってくると、そこへあまたの武士に追いつめられてきた乱髪の小童があった。

「やッ、竹童!」

咲耶子にあわぬ失望は、そのうれしさにおぎなわれて、朱柄の槍と鍔なしの戒刀は、なんのためらいもなくその渦巻のなかへおどった。