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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
と、小姓の面々がハッと身をかためていると、八門の陣の一方に、白いものがヒラリとおどった。
「それ」
と、心もちそのほうへ、一同のからだがズズとよりつめてゆくと、非ず! そこへ散ったのは数枚のふところ紙で、みなの視線が、それにみだされて散らかったせつな、陣の中宮にいた星川余一が、風で貼りついた一枚の白紙を片手で取りのけながら、
「あッ、しまった」
と、とんきょうにさけんだ。
五
余一の声におどろいて、万千代もひょいとろうばいした。とたんに、だれかが、かれの肘を足もとからトンと突いた。
「あッ」
といったが、肘をつかれたはずみに、赤い鞠はかれの掌をはなれて、ポンと飛びあがった。
それへ、烏猫のような人かげが、いきなり飛びかかったかと思うと、
「えいッ!」
と、ほとんど一しょに耳をうった二声の気合い。
陣をくずした小姓組の者をいつのまにかとびこえたのであろう、木隠は白球を手に、菊池半助は紅球を手にして、最初の位置に立っている。
忍法試合紅白鞠盗みの試合は瞬間だった。
この鞠ぬすみは伊賀流と甲賀流のものが、かつて信長の在世当時、安土城で試合をしたこともあるし、それよりいぜんには、仙洞御所のお庭さきで月卿雲客の前で、叡覧に供したこともあって、のちには、公卿たちのあいだに、これを蹴鞠でまねした遊戯さえのこったほどである。