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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「売僧ッ、御岳三日の掟を知らぬか」

「だまれ、武門の誓約さえふみにじる非武士どもに、御岳の神約を口にする資格はない」

言下に鉄杖を見まっていった。

霜とならべて、つきかかる槍も、乱離となって折れとんだ。葵紋の幔幕へ、霧のような、血汐を吹ッかけて、見るまに、いくつかの死骸が虚空をつかむ。

いかれる獅子のまえにはなにものの阻害もない。忍剣はいま、さながら羅刹だ、夜叉だ、奸譎な非武士の卑劣を忿怒する天魔神のすがただ。

ふだんは、無口のほうで、伊那丸にたいしては柔順であり、友情にもろい男であり、小事にこだわらず、その、鉄杖に殺風を呼ぶことも滅多にしない男であるが、いったん、そのまなじりを紅に裂いたときには、百槍千甲の敵も食いとめることができないし、かれの友だちでも、手がつけられない忍剣だった。

その忍剣が、堪忍をやぶって、鉄杖と鉄腕のつづくかぎり、あばれまわるのであるから、ほッたて小屋どうような狩屋建は片っぱしからぶちこわされ、召捕ろうとする、新手も新手も、猛猪に蹴ちらされる木の葉のように四離し、散滅して、手負いの数をふやすばかり。

このさわぎとともに、徳川家以外の溜り場のものは、かれらの横暴をひそかに不快に思っていたので、みな見て見ぬふりして山をおりてしまった。