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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「しさいあり気な女子じゃ。なんの願いか聞いて取らせる。これへ呼べ」と一同を制止した。
うるわしいお下髪にむすび、帯のあいだへ笛をはさんだその少女は、おずおずと、梅雪の駕籠の前へすすんで手をついた。
「訴えのおもむきをいうてみい。また、このようなさびしい広野に、ただひとりおるそちは、いったい何者の娘だ」
「野武士の娘、咲耶子ともうしまする。お訴えいたすまえに、おうかがいいたしたいのは、うしろの鎖駕籠のなかにいるおかたです。もしや武田伊那丸さまではございませんでしょうか」
「それを聞いてなんとする」
梅雪はおそろしい目を咲耶子の挙動に注ぎかけた。
けれど彼女は、むじゃきに咲いた野の花のよう、なんのおそれげもわだかまりもなく、あとのことばをさわやかにつづけた。
「まことは、まえに伊那丸さまから、ご大切な宝物とやらを、父とわたくしとで、お預かりもうしておりましたが、そのために、親娘の者が、ひとかたならぬ難儀をいたしておりますゆえ、きょう、お通りあそばしたのを幸い、お返しもうしたいのでござります」
「ふーむ、して、その宝物とやらはどんな物だ」
「このさきの、五湖の一つへ沈めてありますゆえ、どんな物かはぞんじませぬが、このごろ、あっちこっちの悪者がそれを嗅ぎつけて、湖水の底をさぐり合っておりまする。