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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なんでござりますか」

「さきほどからみるに、わざと、道なき野末へあんないしていくはあやしい。いったいどこへまいる気だ」

「知りませぬ、わたしは、ひとりで好きに歩いているのですから」

「だまれ、五湖へあんないいたすともうしたのではないか」

「だれが、穴山さまのような、けがらわしい犬侍のあんないになど立ちましょうか」

「おのれ、さては野盗の手引きか」

「いいえ、ちがいます」

「吐かすなッ。さらば何者にたのまれた」

「御旗楯無の宝物が欲しさに、慾に目がくらんで、わたしのような少女にまんまとだまされた! オホホホホ……やッとお気がつかれましたか」

「おのれッ」

抜く手も見せず、民蔵がサッと斬りつけた切ッ先からヒラリと、蝶のごとく跳びかわした咲耶子は、バラバラと小高い丘へかけあがるよりはやく、帯の横笛をひき抜いて、片手に持ったまま宙へ高く、ふってふってふりまわした。

ああ! こはそもなに? なんの合図。

それと同時に、ただいちめんの野と見えた、あなたこなたのすすきの根、小川のへり、窪地のかげなどから、たちまち、むくむくとうごきだした人影。

ウワーッと喊声をあげて、あらわれたのは四、五十人の野武士である。