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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

かれはしばらく目をつぶっていたがなれるにしたがって平気になりはるかの下界を見廻しはじめた。

「オオ高い高い、もう鞍馬も貴船山も半国ヶ岳も、あんな遠くへ小ッちゃくなってしまった。やア、京都の町が右手に見える、むこうに見える鏡のようなのは琵琶湖だナ、この眼下は大津の町……」

と夢中になっているうちに、ヒュッとなにかが、耳のそばをうなってかすりぬけた。

「や、なんだ」

と竹童はびっくりしてふりかえった時、またもや下からとんできたのは白羽の征矢、つづいてきらきらとひかる鏃が風を切って、三の矢、四の矢と隙もなくうなってくる。

「おや、さてはだれか、この鷲をねらうやつがある、こいつはゆだんができないゾ」

と竹童は例の棒切れを片手に持って、くる矢くる矢をパラパラと打ちはらっていたが、それに気をとられていたのが不覚、たいせつな果心居士の手紙を、うッかり懐中から取りおとしてしまった。

「アッ、アアアアア……しまった!」

ヒラヒラと落ちいく手紙へ、思わず口走りながら身をのばしたせつな、竹童のからだまで、あやうく鷲の背中からふりおとされそうになった。

三

大津の町の弓道家、山県蔦之助は、このあいだ、日吉の五重塔であやしいものを射損じたというので、かれを今為朝とまでたたえていた人々まで、にわかに口うら返して、さんざんに悪い評判をたてた。