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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

大切な手紙を取りおとしては、お師匠さまから、どんなお叱りをうけるか知れないと、かれはあわてて鷲をおろした。そこはうつくしい鳰鳥の浮いている琵琶湖のほとり、膳所の松原のかげであった。

「これクロよ、おいらが手紙をさがしてくるあいだ、後生だから待ってるんだぞ、そこで魚でも取って待っているんだぞ、いいか、いいか」

竹童は鷲にたいして、人間にいい聞かせるとおりのことばを残し、スタスタ松と松のあいだを走りだしてくると、反対にむこうからも息をきって、こなたへいそいできたひとりの武士があった――いうまでもなく山県蔦之助である。

ふたりはバッタリ細い小道でゆき会った。竹童がなにげなく蔦之助の片手をみると、まさしくおとした手紙をつかんでいる。蔦之助もまた、素はだし尻きり衣服に、棒切れを腰にさした、いような小僧のすがたに目をみはった。

「これ子供、子供。……つんぼか、なぜ返辞をせぬ」

「おじさん、おいら子供じゃないぜ」

「なに子供じゃないと、では何歳じゃ」

「九ツだよ。だけれど大人だけの働きをするから子供じゃない、アアそんなことはどうでもいい、おいらおじさんに聞きたいけれど、そっちの手につかんでいるものはなんだい? 見せておくれよ」