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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

伝内や兵太もいながら、なぜそんなことをするんです」

と、とがめた。名をさされたふたりの野武士は、一足でて、咲耶子の駒に近よった。

「まだ、ごぞんじありませぬか。これこそ、お頭が、まえまえからねらっていた武田家の小伜、伊那丸です」

「おだまりなさい。とりこにしても身分のある敵なら、礼儀をつくすのが武門のならいです。おまえたちは、名もない雑人のくせにして、呼びすてにしたり、縄目にかけるというのはなんという情けしらず、けっして、ご無礼してはなりませぬぞ」

「へえ」と、一同はその声にちぢみあがった。

「わたしは道になれているから、あのかたを、この馬にお乗せもうすがよい」

と、咲耶子は、ひらりとおりて伊那丸の縄をといた。

まもなくけわしいのぼりにかかって、ややしばらくいくと、一の洞門があった。つづいて二の洞門をくぐると天然の洞窟にすばらしい巨材をしくみ、綺羅をつくした山大名の殿堂があった。

この時代の野武士の勢力はあなどりがたいものだった。徳川北条などという名だたる弓とりでさえも、その勢力範囲へ手をつけることができないばかりか、戦時でも、野武士の区域といえば、まわり道をしたくらい。