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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

と、折からそこへ、

「右少将さまにもうしあげます。ただいま、ご家臣の本多さまがお国もとからおこしあそばしました」

と、ひとりの小侍が取りついできた。すると、入れかわりにまたすぐと、べつな侍が両手をつき、

「左少将さま。福島正則さまが、ちとご別室で御意得たいと先刻からおまちかねでござります」

ふたりは、大地図のまえをはなれて、目礼をかわした。

「ではまた、後刻あらためてお目にかかりましょう」

端厳、麒麟のごとき左少将秀吉。風格、鳳凰のような右少将家康。どっちも胸に大野心をいだいて、威風あたりをはらい、安土城本丸の大廓を右と左とにわかれていった。

二

「野武士のうちにも人物があるぞ」

別室にうつって、福島正則の手から密書をうけ取った秀吉は、一読して、すぐグルグルとむぞうさに巻きながら、

「丹羽昌仙というやつ、ちょっと使えるやつじゃ。したがこの手紙の要求などをいれることはまかりならん。ほっとけ、ほっとけ」

「信玄の孫、伊那丸とやらが、ふたたび、甲斐源氏の旗揚げをいたす兆しが見えると、せっかく、かれからもうしてまいったのに、そのままにいたしておいても、大事はござりますまいか」