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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「はて? なにか茶道具の類のお話でもござりますかな」
「いやいや。武田家につたわる天下の名宝、御旗楯無の二品をお手に入れたということではござりませぬか」
「あああれでござるか、いや例の好みのくせで、求めたことは求めましたが、さて、なんに使うということもできない品で、とんだ背負物でござる。あはははははは」
と、秀吉は、こともなく笑ってのけたが、家康にはいたい皮肉である。穴山梅雪に命じて、じぶんの手におさめようとした品を、いわば不意に、横からさらわれたような形。
しかし、秀吉はそんな小さな皮肉のために、黄金千枚を積んで買いもとめたわけでもなく、また決して、御旗楯無の所有慾にそそられたものでもない。要は和田呂宋兵衛という野武士の潜勢力を買ったのだ。
清濁あわせ呑む、という筆法で、蜂須賀小六の一族をも、その伝で利用した秀吉が、呂宋兵衛に目をつけたのもとうぜんである。
かれを手なずけておいて、甲駿三遠四ヵ国の大敵、げんに目のまえにいる徳川家康を、絶えずおびやかし、時によれば、背後をつかせ、つねに間諜の役目をさせておこう、――というのが秀吉のどん底にある計画だ。