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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

梯子はとりはずされて、下には、あやしい陥穽が伏せてあるようす、ほかに出口はむろんない。

半助は絶体絶命となった。

けれど五本の指と二本の足が、ままになる以上、こんなことで、おめおめ命をおとすような菊池半助ではない。

かれは脇差をぬいて、いきなり、あっちこっちの壁をズブズブとつき刺した。そしてそとへ通じるところをさぐりあて、たちまち二尺四方ぐらいの穴を切りぬいたかとおもうと、ほとんど、猫が障子の穴をすりぬけるようにするりと身をはいだして、一丈四、五尺の上から大地へポンと跳びおりた。そして、

「ここだな……」と、すすり泣きのもれている物置小屋の戸をねじあけて、なかにいる蛾次郎を助けだした。

「あッ、お武家さん――」

蛾次郎が素ッ頓狂な声をだす口をおさえて、

「しずかにせい。さっきそのほうがおれをたすけてくれた返礼に、こんどはきさまを救ってやる。徳川家へまいれば伊賀衆の組頭、いくらでも取り立ててやるから一しょについてくるがいい」

「あ、ありがとう。おれもこんなやかましい親方にくッついているのはいやでいやでたまらないんだ」

「む、卜斎に気取られぬうち、そッと馬小屋から足のはやいのを一ぴきひっぱりだしてこい」