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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「いいとも、馬ぐらい盗みだすのは、ぞうさもないよ」

蛾次郎が闇のなかへ飛んでいくと、そのとたんに半助のあたまの上で、ドドドドスン! というすさまじい家鳴り震動。ふり仰いでみると、いまかれがのがれだした壁の穴から、濛々たる土煙が噴きだしている。

「おれがここへ抜けだしているのに、卜斎めが釣り天井の綱を切ったんだろう。そんな壺におちるような者は、伊賀衆の中には一ぴきもいるもんか」

せせら笑っていると、ふいに、家のなかから轟然たる爆音とともに、火蓋を切った種子島のねらい撃ち。

「あッ、気がついたな、こいつはぶっそうだ」

バラバラとかけだしていくと、暗闇から牛をひきだしたという諺どおり蛾次郎のうろたえよう。

「お侍さん、――お侍さんじゃないのかい」

「おれだおれだ、馬は? 馬はどこにいる?」

「ここだよ、馬を盗みだしてきたところだ」

「どこだ、アア、まっ暗。どこにいるのじゃ」

「ここだよ、ここだよ」

と蛾次郎が手をたたくと、その音をたよりにねらった鉄砲の弾が、またも、つづけざまに、二、三発、ズドンズドン! と火の縞を走らせた。

「わあッ、だめだ、あぶねえ!」

ふいに、蛾次郎が胆をつぶして腰を抜かしたらしい弱音。