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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なにを気を呑まれているか! 意気地なしめ!」

ふいに、そのなかで、思いだしたようにどなったのは轟又八。

「すこしもはやく、水道門の堰をきって、間道のなかへ濁水をそそぎこめ、さすれば、いかなる天魔鬼神であろうと、なかのふたりが溺れ死ぬのはとうぜん、しかも、味方にひとりの怪我人もなくてすむわ」

あっぱれ名案と、誇りがましく命令すると、手下どもが、おうと答えるよりはやく、

「いや、そりゃ断じていかん」

はげしく異議を申したてた者は、軍師丹羽昌仙であった。かれとは、つねに犬と猿の仲みたいな轟又八、すぐ眉をピリッとさせて、

「こういうときの用意のため、いつでも水道門の堰さえきれば、間道はおろか裾野一円、満々と出水になるようしかけておいた計略ではないか。軍師には、なんでお止めなさる」

「おろかなことをお問いめさるな、それ、溺兵の計りごとは、一城の危急存亡にかかわるさいごの手段、わずかふたりの敵をころすために、なんでそれほどの費えをなそうや」

「心得ぬ軍師のいい条、では、みすみす間道門をやぶられて、ここにおおくの手負いをだすとも、大事ないといいはらるるか」

「なんで昌仙が、それまで手をつかねて見ていようぞ、拙者にはべつな一計があること、又八どのは、それにてゆるりとご見物あるがよい。