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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「オーイ」

と手をあげながらかけだしていくと、半町ほどのところで、フイとその影を見うしなってしまった。

「はてな、ここは一すじ道だのに……」

小首をひねって見まわしていると、なんのこと、いつかまた、三町も先にその影が歩いている。

「こりゃおかしい。伊那丸さまではないようだが、あやしいやつだ。一つつかまえてただしてくれよう」

と宙をとんで追いかけていくうちに、また先の者が見えなくなる。足をとめるとまた見える。さすがの忍剣も少しくたびれて、どっかりと、道の木の根に腰かけて汗をふいた。

「どうもみょうなやつだ。人間の足ではないような早さだ。それとも、あまり伊那丸さまのすがたを血眼になってさがしているので、気のせいかな」

忍剣がひとりでつぶやいていると、その鼻ッ先へ、スーッと、うすむらさき色の煙がながれてきた。

「おや……」ヒョイとふりあおいでみると、すぐじぶんのうしろに、まっ白な衣服をつけた男がたばこをくゆらしながら、忍剣の顔をみてニタリと笑った。

「こいつだ」

と見て、忍剣もグッとにらみつけた。男は背に笈をせおっている六部である。ばけものではないにちがいない。