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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

と、かれはいきなり下から、ぎゅッと才蔵の帯をにぎりしめた。

「あはははは、およばぬ腕だて」

と、才蔵は力をゆるめて笑いだした。

「笑っていろ、笑っていろ、そして、いまに見ているがいい、この下の煙硝庫が破裂して、やぐらもきさまもおいらも、一しょくたに、木ッ葉みじんに吹ッ飛ばされるから」

「えッ、煙硝庫が?」

「おお、あのなかへ松明を、ほうりこんできたんだ。ああいい気味、その火を見ながら死ぬのは竹童の本望だ、おいらは本望だ」

「いよいよ、よういならん小僧だ」

さすがの才蔵も、これにはすこしとうわくした。がいまの一言を聞いて、

「では、もしや汝は、伊那丸のために働いている者ではないか」

と、問いただした。

「あたりまえさ、伊那丸さまをおいて、だれのためにこんなあぶない真似をするものか、おいらもお師匠さまも、みんなあのお方を世にだしたいために働いているんだ」

「おお、さてはそうか」

と才蔵は飛びのいて、にわかに態度をあらためた。竹童は、手をひかれて起きあがったが、少しあっけにとられていた。

「そうとわかれば、汝を手いたい目にあわすのではなかった。なにをかくそう、拙者はわけがあって、秀吉公の命をうけ、この裾野のようすを探索にきた、可児才蔵という者だ」