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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
果心居士の壁叱言
「さあ、もう天下はこっちのものだ」
鷲の翼にかくれた竹童のからだは、みるまに、望楼の屋根をはなれて、磨墨のような暗天たかく舞いあがった。
――と思うと同時に、とつぜん、天地をひっ裂くばかりな轟音。
ここに、時ならぬ噴火口ができて、富士の形が一夜に変るのかと思われるような火の柱が、人穴城から、宙天をついた。
ドドドドドドウン!
二どめの爆音とともに、ふたつに裂けた望楼台は、そのとき、まっ黒な濛煙と、阿鼻叫喚をつつんで、大紅蓮を噴きだした殿堂のうえへぶっ倒れた。
そして、八万八千の魔形が、火となり煙となって、舞いおどる焔のそこに、どんな地獄が現じられたであろうか。
果心居士の壁叱言
一
「また富士山が、火をふきだしたのであろうか」
「おお、まだ今朝もあんなに、黒煙が、あがっている」
「なあに、お山はあのとおり、いつもと変ったところはない、きっと猟師が、野火でもだしたんだろうよ」
「いやいや、野火ばかりで、あんな音がするものか、戦のためだ、戦があったにきまっている」
「え、戦? 戦とすればたいへんだ、このへんもぶっそうなことになるのじゃないかしら」
ここは、裾野や人無村からも、ずッとはなれている甲斐国の法師野という山間の部落。