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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
遠術日月の争い
一
「おや、あのあんばいでは、裾野の合戦は伊那丸さまの敗亡となったかしら?」
竹童、いまさら気が気でなくなったから、いやがうえにも、クロをいそがせて、裾野の空へきて見ると、人穴から燃えひろがった野火は、止まるところを知らず、方三里にわたって、濛々と煙をたてているので、下界のようすはさらに見えない。
遠術日月の争い
一
七日七夜、燃えにもえた野火の煙は、裾野一円にたちこめて、昼も日食のように暗い。
富士の白妙が銀細工のものなら、とッくに見るかげもなく、くすぶッてしまったところだ。見よ、さしも人穴の殿堂すべて灰燼に帰し、まるで鬼の黒焼、巌々たる岩ばかりがまっ黒にのこっている。
すると、さっきから、その焼け跡を見まわっていた三騎のかげが、廃城の門をまっしぐらに駈けだした。そして濛々たる野火の煙をくぐりながら、金明泉のちかくまできたとき、さきにきた山県蔦之助が、ふいに、ピタッと駒をとめて、
「や? ご両所、しばらく待ってくれ」
と、あとからきた二騎――巽小文治と木隠龍太郎へ、手をふって押しとどめた。
「おお、蔦之助、呂宋兵衛の残党でもおったか」
「いや、よくはわからぬが、あの泉のほとりに、なにやらあやしいやつがいる。