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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

みずから仙丹をかんで唇うつしにのませてくれるほどやさしい居士も、竹童が正気にかえるとともに、いつもの気むずかしい厳格なすがたにもどっている。

「不覚者めが、この後もあること、敵にあったらかならずわしの教えをおもいだすのじゃぞ」

「はい、面目しだいもございません。燕作というやつにつかまって、とうとうおくれをとりましたが、こんど会ったら、きっと負けはいたしません」

「よし、早うゆけ」

「ですが、お師匠さま――」

竹童はなつかしそうに近寄って、居士のおもてを見上げながら、

「いつか、人穴城へなげ松明をせよと、お師匠さまから密策をさずけられました時に、お別れしたきり、その後さらにお姿が見えませんでしたが、一たい今日まで、どこにおいでなされたのでござります」

「おお、わしのいたところか、じつは、そちだけにいってきかすが、わしはゆえあって、常陸鹿島の宮、下総香取の両神社に、七日ずつの祈願をこめて参籠しておったのじゃ」

「そして、お師匠さまのご祈願というのは?」

「伊那丸さまのご武運をうらなうに、どうも亀卜の示すところがよくないので、前途のおため神願をたてた」

「では、お師匠さまの易によると、伊那丸さまには、甲斐源氏のみ旗をもって、天下をお握りあそばすほどな、ご運がないとおっしゃいますか」